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2010/02/28 (Sun) シャガールの罠

深水 黎一郎『花窗玻璃 シャガールの黙示』講談社ノベルス 2009.9 読了。


(1)導入
『本格ミステリ-・ワールド2010』の「黄金本格」に選ばれる。今年は8冊しかなかった。3人の評者が長い鼎談の末に選んだ本作である。逆に言うと、他のミステリ本にはランキングされていない。

それはとりもなおさず、本書の評価が難しいからである。まず題名が読めない。「はなまど はり」であり、ステンドグラスを意味する。次に副題もわからない。「シャガールの黙示」である。本書の読み解きは、本格ミステリの歴史の中でも最も難しい部類に属すると思う。多くの罠が張られているからである。

若気の至り探偵と、その叔父さんである本物のうだつの上がらない刑事の会話が、作中作を取り巻く環境である。両者は前の作品から登場しているので、シリーズ物である。この会話が軽妙で楽しい。

作中作で、若者探偵がフランスに遊学しているときに出会った奇妙な出来事が記述される。ここに様々なトリックが仕掛けてある。今回は表記法という明らかな難題に挑戦である。すなわち、カタカナをすべて漢字に置き換える表記法である。衒学趣味であるが、ある必然性を持っているのも謎の1つである。例えば大聖堂=カチドラル、素描帳=スケッチブック、怪物形状雨桶=ガルグイユ、安妮=アンヌ、などという具合である。つまりフランス語も英語も、人名も場所名もすべて漢字で表記し、しかもルビを振る。

(2)作中から考察される細々した断片

本書の魅力の1つは、日本文化論の発露となっていることである。それが気に入らない場合もあるだろうが、しかし確かにおもしろいアイデアが多い。以下、感心した部分を列挙してみる。

・村上春樹はHaruki(アルキ)と表記するが、この単語はアルジェリア人のフランスへの移住者を指すので、アフリカ文学に分類されている(こともある)。93

・戦後、フランス文学は特権的な地位を占めてきた。主要作品はほとんど翻訳されてきたし、些末な作家まで詳細な研究が日本語で発表されている。フランス語の訳された日本文学は高く見積もっても、逆の10分の1。文化の高低を考えれば一方的輸入は当然となるが、『源氏物語』など日本にも伝統があるはず。103

・日本国民の知的レベルを下げることを目的に、当用漢字や常用漢字が制定された(かも)。比ゆ的表現、損失補てん、とか新聞や教科書で表記されていて、悲しくないか? 168

・白亜紀は白亞紀と書くべきである。172 

・フリーメイソンは石工(マッソン)の共同体生活と関係ある。177

・過去に為政者(と御用学者)によって歪められてきた歴史を、公平に審判するのが後世の歴史家の使命。213

・東大寺の大仏にまつわる祟りの正体と、その終息の正体がみごとに暴かれる。254

このような文化論を聞くだけでも十分に楽しい作品である。

(3)子供の本格ミステリとして

さて、通常の手続きによって、ミステリとして眺める本書の魅力である。ランス大聖堂で不審な死が続けて2件おこる。その真相は何かという問い。若者探偵がずばりと推理を行い、一応の解決を迎える。伏線、トリック、動機、どれをとっても一級品である。特にあからさまに伏線が張られており、それが伏線であろうとはわかるのだが、いったいどのようにトリックとして終着させるのか、という手段に関しては皆目見当が付かないままであった。

この意味で、通常の本格ミステリとしても十分におもしろい。特に****を使った大トリックには魅せられた。すべてが平仄するようにできている。ここまででも十分にミステリ読みには応えられる内容になっている。

しかし同時にこの側面は割合にあっさりしているので、肩すかしをくらう読者も多い。漢字が多くて読みにくい、あまり驚きがない、現実性がない、伏線が明らかすぎ、など。わたくしもこうした感想を少し抱いていたので、本当にこれだけならば、あっさりしているなという感想を持った。

もう1つは、作者が読者に仕掛ける小さな企みも楽しかった。なぜすべてが漢字表記なのか。実は「読者=被害者」を実現しようとする愉快な試みであった。また、常にメタが意識されている。

しかし物語はここで終わらない。

(4)黙示の顕示

本書の難解さは、それ以上の解釈を許す点である。物語内部の表面的な真相は、以上で終わった。それだけでも十分に楽しい。しかしそれは子供の楽しみ方である。これは悪い意味ではなく、夢中になれるという戯れの楽しみであった。しかし副題が示すように、大人の楽しみも残っている。

それがシャガールの黙示である。この部分の難解さは、物語の内部ではっきりと語られることがないからである。また、シャガールの作った3枚のステンドグラスのモチーフが文字情報だけでは、うまく捉えられないからである。さらに、聖書やヨーロッパの知識が必要とされるため、なかなかそこまで考えが至らないからである。

160ページを参考にしながら、そしてネットでシャガールの絵を参考にしながら、この部分の謎解きを自分で考えなければいけない。単に読むという受動的な態度ではなく、調べ、繋げ、推すという積極的な態度が必要とされる。

キーワードはヤコブの梯子、イサクの犠牲、シャルル7世の戴冠(ジャンヌダルクの活躍)であろう。まずこれらの単語を熟知し、その上で物語に帰らないといけない。本書は1度読んだだけでは、うまく深層の真相がつかめないのだ。特にヤコブの梯子はシャガール自身のモチーフであり、本書を読んでからその絵を眼前に置くと、あまりの平仄に驚愕することになるのだ。

(5)終わりに

というような考察を重ねていくと、「子供の絵」であると思われてきたシャガールの作品が、実は綿密な企みを内包する本能の叫びであるという具合に、暗転と符合をもたらす構図が見えてくるのだ。作者も大胆にこう言っている。「私はいつも作品の重層的な構成に心惹かれる質ですが、」「つまり全てを読み終えた読者が夏卡爾の花窗玻璃の中に、本書全体の構図をもう1度発見することを作者は望んだのでした。」(『本格ミステリ-・ワールド2010』, 42)

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