小説:テキスト庵オフライン・ミーティングの惨劇 (第9回連載)
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「なるほど、寂しかったんだね、<柿柳>さん」
「そうなんだ、わかってくれるか、管理人さん。毎日毎日つらいことばかり。学生には突き上げられるし、同僚にはいじめられるし、飲みに行く友達もいない。論文も書けなければ、授業評価も最低。さりとて大学行政でも冷や飯。これじゃあやけ酒飲んで、ふて寝する人生だったんだ」
「ふむ」
「だから、ブログを始めたわけなんだ。特にテキスト庵では温かい家族的な雰囲気があったし。ネットで起こりがちな罵倒とか無意味な論争もなかったし」
「いや、あなたは完全な思い違いをしているね」
「え、なに?」
「ブログを書くことで、ツイッターでつぶやくことで、何か世界とつながっているなんて、大いなる幻想だよ」
「そ、そんな。わたくしはテキスト庵のほんわかとした、のほほんとした、アナログ的な、幻想的共同体実在としての自己同一性(このへんが大学教授だねぇ)が好きなんだ。こんな寂しいボクも誰かとつながっていたいんだよ」
「フフ、まったく幻想だな。わかってないねぇ」その言葉に不審を抱いた<柿柳>が管理人に触れようとすると、バチッという音がして拒絶された。
「こ、これはATフィールド?」
「そう、君たちリリィはそう呼んでいるね。何人にも浸されざる聖なる領域。ブログは誰もが持っている心の壁だってことを」
「そんなのわからないよ、カオル君」
「いかにコメント機能を付けようが、トラックバックを張ろうが、いかにツイートしようが、それは幻想にすぎない。人はしょせん、一人っきり。パソコンやケータイの前で寂しく虚しく文字を打つ、寂然の世界、諸行無常の理だよ。」
「うそだうそだ、そんなの嘘だよ。他のすべての空間がそうでも、テキスト庵だけは違うよ」
「テキスト庵か・・・。この文字をひっくり返してごらん。Text Annの逆、すなわちAT、Absolute Territorial Fieldのことだよ。テキスト庵こそ、個別バラバラの主体がバラバラに寂しく集計されている存在なのさ。そのブログどおしは、実は絶対的境界領域によって交わることはないのだよ」
「そんなのわからないよ」
「生徒使徒とは等価値なんだよ。自らの死、それこそが絶対的自由なんだよ」
「カオル君、ぼくはぼくは君が何を言っているのか、まったくわからないよ」
「君が好きだってことさ」(ボーイズラブかよ)
<柿柳>はがっくりと肩を落とし、慟哭した。いつまでも絶えることのない慟哭であった。それを冷ややかに見ていた管理人は、やがて殺陣未遂の現行犯として連行されていく<柿柳>を無言で見送った。
そこには荒涼とした無限の空間が広がっていた。
了
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comment
No title
渋い幕切れです。なんだかよくわからないところもあるのは、言われたとおりに予習しなかったからでしょう。(「予習しろ」と言われても、学生はなかなか言うとおりにしないものです。)
生徒使徒という意図的な誤字がにくいです。
最後に、「やっぱり【な】さんは管理人だったんだぁ」と思いました。
2010/04/11 16:06 | 雪見 [ 編集 ]
No title
雪見さん、こんばんは。
予習しないと良い理解につながりませんよ。再履修の必要があります。。。
2010/04/12 09:56 | 柿柳 [ 編集 ]
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