大門剛明『雪冤』角川書店 2009.5 読了。
第29回横溝正史ミステリ大賞受賞。テレビ東京賞受賞。まったくの新人。
雪冤、という言葉は知らなかった。雪辱、ということばがあるから、雪という漢字に、特別な意味がある。洗い流す、すすぐ、きれいにする、という意味になるだろうか。
綾辻行人が審査委員に入っていたから、そして選評を見てみるとかなり期待していたから、わざわざ買ってみる。最近はミステリもすっかり単行本になってしまって、なかなかの出費である。
さてテーマは死刑制度と冤罪。この両者の関係をミステリを仕込むことによって解き明かす、あるいは指し示す。単にどれかの立場を声高に叫ぶのではなく、ずっしりと重い問いかけをするという方法。きわめて意外なことに、ミステリというもっとも娯楽的な要素にはめ込まれているにもかかわらず、いやそれだからこそ、このような重いテーマが描けるのではないか。
真相は二転三転する。このような仕掛けは北村薫によれば、むしろあざといと感じたらしい。しかし綾辻はそれを好ましいと見ている。残りの2人の評者もそう見た。何よりも真面目に、ずっしりと、秘めたる炎から書かれている。もちろん人物造形はそれほどでもないから、登場人物がもう少しうまくかき分けてくれたら、もっと意外などんでん返しや感情移入が楽になるのだろう。しかしここには不器用さがあるため、逆に物語の真実性が浮かび上がってくる。
動機、が前例のないもの。殺人の動機にこんなものがあったのか。それは驚愕である。京極『塗仏の宴』以来の驚きであろう。全編に「走れメロス」がモチーフとしてあり、演劇と、合唱と、ホームレス社会が京都という都市で息づいた物語である。
不器用な小説であるが、読むに値する。すらすらとは読めない。
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